2012年12月10日月曜日

安倍総裁と野田首相の"口先公約"にご用心! 実現方法や立ちはだかる課題には触れない大胆発言の信憑性を問う!(現代ビジネス)

現代ビジネス
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町田徹「ニュースの深層
安倍総裁と野田首相の"口先公約"にご用心! 実現方法や立ちはだかる課題には触れない大胆発言の信憑性を問う!
 2012年11月27日(火) 町田 徹
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▼全文引用

(1)
 自民党の安倍晋三総裁は、17日の「日銀による建設国債の買い入れ」発言がメディアで大きく扱われて以来、得意満面で演説のたびに「私が総裁になったら、円が下がり、株も上がった。給与も、雇用も伸びていく」と繰り返しているという。
 対する野田佳彦首相(民主党代表)は渋面を崩さず、「脱原発依存」と「TPP(環太平洋経済連携協定の推進)」を念仏のように繰り返している様子だ。
 だが、2人の発言には、共通点がある。その実現方法や、立ちはだかる壁をどう克服すべきかについて、ロクに言及していない点だ。口先だけで、事の 重大性を理解しないではないかと疑いたくなる皮相な物言いなのである。我々有権者は、前回の総選挙における民主党マニフェストの二の舞にならなかいか疑っ てみる必要がありそうだ。

自画自賛を得意げに行う安倍総裁

まず、話題をさらっている安倍氏の一連の発言を巡る新聞報道を概括してみよう。
 そもそも安倍氏は、10月半ばのインタビューで、日銀法改正を視野に入れた発言をしていた。
 同氏は今月17日の熊本市内での講演で、政権を奪還した場合、景気刺激策として公共投資を拡大し、その財源を調達するため「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と発言した。加えて「(そのことで)強制的にマネーが市場に出ていく」と補足したという。

(2)
 19日には、自民党本部で開いた会合で、「インフレターゲット(物価目標)をしっかり設定して、それまで日銀は無制限で金融緩和を行っていく」と強調した。
 さらに、自民党は21日、『政権公約』を公表し、「明確な『物価目標(2%)を設定、その達成に向け、日銀法の改正も視野に、政府・日銀の連携強 化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う』」ほか、「財務省と日銀、さらに民間が参加する『官民協調外債ファンドを創設し、基金が外債を購入するなど様々 な方策を検討する』」との方針を打ち出した。
 そして、安倍総裁は22日、都内で開いた商工会全国大会で挨拶し、「われわれが政策を発表しただけで円は下がった。下がったことで一体、何人の雇用が守られたか。日銀には謙虚に考えてもらいたい」と発言したという。
 実は、筆者の取材でも、安倍総裁は、こうした趣旨の自画自賛を得意げに行っている。

「国債の直接引き受け」を連想させる発言

ここで注目せざるを得ないのが、17日の「建設国債を日銀にできれば全部買ってもらう」という発言だ。
野田首相の解散表明もあって、外為市場で円安、株式市場で株高が進んでいることから、安倍発言を好感する人は多いようだ。しかし、事はそんな単純な話ではない。
 というのは、この発言が、財政法が第5条で禁じている「政府からの国債の直接引き受け」を連想させるからである。
 財政法が第5条で、これを禁じているのは例えば、第1次世界大戦の終了の翌年にあたる1919年から5年の間に、戦時賠償金の支払いに喘いでいた ドイツで、当時の中央銀行ライヒスバンクによる政府短期証券の引き受けが引き金になって、物価が実に1000万倍に高騰するという悪性のハイパーインフ レーションが起きた事例があるからだ。
 さらに、国債の直接引き受けが政府の財政節度を失わせる恐れがあることも、財政法第5条の根拠とされている。
 ただし、「買いオペ」は例外である。というのは、金融政策の一環として、日銀の判断で、一旦は市中で消化された国債を買い入れることは、金融情勢に応じて必要とみなされているからだ。

(3)

公明党からも慎重論が出る事態

実際のところ、日銀は10月末に発表した「『資産買入等の基金運営基本要綱』の一部改正等について」の中で、買入総額と利付国債、国庫短期証券の 買入上限をそれぞれ、66兆円程度(それまでは55兆円程度)、39兆円程度(同34兆円程度)、19.5兆円程度(14.5兆円程度)と引き上げてい る。これらの観点からの買いオペは、主に円高、デフレ対策を念頭に置いたものである。
 さらに言えば、金融の専門家や市場関係者の大勢が、この種の買いオペ的な国債購入について、リーマンショック後の日米欧の動向を比べた場合に、日 本の買入額の増加ピッチが遅く、他の先進国の中央銀行に遅れをとっていた点を問題視していたのは事実だ。この結果、為替、デフレ対策に対しても熱心さを欠 くとみなされてきたのである。
 換言すれば、大幅な買い入れ枠の増加や、これまで購入対象でなかった外国債を購入することで、為替、デフレ対策を講じる必要があるとの見方も増えていた。
 そこで、安倍発言だ。安倍発言はこうした専門家の一致するところと明らかに一線を画するものだ。一足飛びに、「国債の直接引き受け」を想起させる 発言となっているからだ。外為・株式市場では、劇薬の短期的な効果をはやす声が出たものの、政敵の政府・民主党と標的にされた日銀が強く反発しただけでな く、自民党の盟友のはずの公明党からも慎重論が出る事態を招いてしまった。
 中でも、日銀の白川総裁の反発は辛辣で、あくまでも一般論としながらも、「国際通貨基金IMF)が発展途上国に助言する際に、やってはいけないことのリストの最上位だ」「(悪質なインフレに)歯止めが効かなくなる」などと述べた。

軌道修正を余儀なくされた安倍総裁

結局のところ、当の安倍総裁は22日、自民党の全国幹事長・政調会長会議で「いろいろ言われているが、日銀が『買いオペ』で市場から買っていく」 と語り、日銀に直接引き受けを求めていないと釈明したという。威勢の良い言葉と裏腹に、実際には軌道修正を余儀なくされていたわけだ。
 もっと言えば、普天間基地の移設を「最低でも県外」といった鳩山由紀夫元首相や、JALの再建を「白紙撤回」といい国有化を招いた前原誠司国土交通大臣ら、民主党政権の首脳陣と同じ、口先だけの思い付き発言と勘繰らざるを得ない。

(4)
 繰り返すが、筆者は現場におらず、報道で知るだけだが、17日の最初の発言の趣旨があやふやで、誤解を招くものだったと言わざるを得ない。
 金融の世界では、日銀の国債引き受けは「禁じ手」としてあまりにも有名だ。本人がきちんと理解したうえでの発言ならば、国債引き受けと買いオペを区別して誤解を招かないように発言すべきだった。
 「できれば、全部」という言い回しは、財政秩序の維持やインフレ抑制の観点から、原則として、買いオペの対象を国債の市中消化分のうちの金融機関保有分に限定している現行制度の形がい化を狙っているとみなされても仕方がない。それほど稚拙な発言だ。
 これでは、民主党からの再・政権交代を期待する者にとっても、安倍政権では、経済政策が覚束ないと不安にならざるを得ないだろう。
 もちろん、筆者は、安倍総裁の発言だけが問題だと言うつもりはない。
野田首相のTPPや脱原発依存に関する様々な発言も似たり寄ったりだ。紙幅がないので、ここでいちいち説明することはできないが、興味のある方は、TPPは『韓国の独壇場に待ったをかけられるか? 首脳会談でヤマ場を迎える「日欧EPA交渉」のゆくえ』(2012年4月10日付)、また脱原発では『「安全」と「国民負担」を棚上げにした野田首相の責任を問う!「原発ゼロ社会」を国民を欺く選挙向けのマニフェストにした「革新的エネルギー・環境戦略」の茶番』(2012年9月25日付)など本連載の過去の記事を再読いただきたい。
 世論調査の上では、与党と野党第1党になるとみられている自民党と民主党政権公約がこのような状態では、益々、国民は政治不信に陥りかねないのではないだろうか。

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